相殺と書いて「そうさつ」ではなく「そうさい」と呼ぶことを、民法を学習して初めて知った方も多いのではないでしょうか。
相殺は債務を消滅させる重要な法律行為です。しかし、
など用語も多々あり、混乱しやすい分野です。
今回は宅建試験における「相殺」についてピックアップし、過去における相殺の出題頻度や、押さえておくべきポイントについて解説します。
相殺はポイントさえ絞れば容易に得点できるので、ぜひ、最後まで読んで、相殺が出れば「ラッキー」と思えるようになってください。
相殺の出題頻度や難易度は?どんな問題が出る?
まず、相殺の出題頻度や難易度について、解説します!
出題頻度
数年に一度という割合なので、頻度としてはそこまで高くはありません。
難易度
次に、難易度ですが、宅建全体から見れば難易度は高めと言えます。
しかし、後程実際に過去問をみてみますが、実は基本的な事項を押さえてさえいれば、容易に解くことができます。
では、なぜ「難易度が高い」と言われているのかというと、受験者の正答率が低いからです。
相殺は、上記のとおり出題頻度が数年に一度ということもあり、受験者も力を入れていません。あえて、相殺がでれば捨てるというスタンスの受験者も多数います。
その結果として、「難易度が高い」と言われるようになっているのです。
どんな問題が出る?
では、具体的に宅建本試験で、どのような問題が出題されているか解説します!
宅建過去問 H30年 問9 民法(相殺) 問題
Aは、平成30年10月1日、A所有の甲土地につき、Bとの間で、代金1,000万円、支払期日を同年12月1日とする売買契約を締結した。この場合の相殺に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
日付や様々な債権、当事者もABと事例問題が多い傾向にありますので、問題を読むことも一苦労と言えるかもしれません。
しかし、問われていることは単純です。
相殺の論点のうち、どの点を押さえていれば、簡単に解けるか、解説します。
肢2 差し押さえ後に取得した債権では相殺できない。よって×
肢3 ○ ただし、Aからの相殺はできない(民法509条)
肢4 時効消滅後の債権では相殺はできない。よって×
この問題は典型的な相殺の問題で、必要な論点もここに収められている程度ですし、問題文は長いですし、事例問題ですが、問題文を読んで整理してひも解けば、実はただの知識問題です。
理解して飲み込む方が当然いいのですが、丸暗記でも結構です。
覚えること自体は大した量ではないので、重要な点についてだけ覚えておくことは決して損にはなりません。
【相殺の問題】どんな知識を押さえていれば安心?
では、相殺の論点について、もう少し詳しく見ていきましょう!
ポイントさえ絞れば、実は簡単に得点することができるので、ぜひしっかりと整理して覚えて頂きたいと思います。
また、相殺だけではありませんが、民法の学習をする際には必ず、AやB、あるいは甲や乙といった事例をあげて、考えることが理解への早道になります。
相殺とは
例えば、AがBに対して100万円の金銭債権を有し、BがAに対して100万円の金銭債権を有するとします。
このケースで、BがAに対して100万円支払って、AはBから返してもらった100万円をそのままBに支払うというのは面倒ですね。
そこで、AがBに対して相殺の意思表示を行ったとします。
そうすると、差引計算によりBのA、AのBに対する債権はそれぞれ帳消しになります。
自働債権と受働債権
といいます。
自働債権か受働債権かは、相対的な概念なので、事例によりいつでも入れ代わります。
相殺の効力発生時期
AのBに対する債権の弁済日が10月1日、BのAに対する債権の弁済日が、11月1日だったとしましょう。
10月15日にBがAに対してBの債権を自働債権、Aの債権を受働債権として、10月15日に相殺を援用しました。
相殺の効力は、いつから発生したことになるでしょうか?
本来、相殺はお互いの債権の弁済期が到来してはじめて可能となります。
どちらからでも、相殺を申し込める状態を相殺適状といいます。
相殺適状にならないと相殺はできないので、弁済日の違う債権を相殺する場合は、相殺適状になった日から、相殺の効果が発生するとことになります。
つまり、先程の例で言うと、11月1日がお互いの債権が相殺適状になった日となります。
さらに、相殺適状になった日から効果が生じますので、特約や条件をつけたとしても(例えば「相殺を援用した日に相殺の効力が生じる」)効力は発生しません。
消滅時効と相殺適状
具体的に考えてみましょう。
例えば、AがBから1000万円を借り入れし、逆にAはBに自己所有の土地を1000万円で売却したとします。
この場合、
という同種の債権を有することになります。
そして、Aの代金債権だけ時効によって消滅したとしても、Aは相殺を主張することが可能となります。
不法行為による債権の相殺
民法509条には、「債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない」と規定されています。
具体例をあげて考えてみましょう。
AがBに50万円を貸していたとします。
支払期限になっても、Bが一向にお金を返さないので、Aは頭にきてBに不法行為を加えました(簡単に言うと殴りました・・・)
と、Aは言えません。
なぜなら、犯罪の助長につながりますので、不法行為を行った方から相殺します、とは言うことは禁止されています。
つまり、不法行為で発生した損害賠償については、いくら相手方に対して金銭債権を有していても、相殺をすることができません。
ただし、不法行為によって損害を受けた方から「相殺します」と言うこと許される(自働債権として相殺の援用をすることは可能)ので、Bからの相殺は可能です。
まとめ
以上、今回は「相殺」についてお話しさせていただきました。
相殺は
と多くの方がお思いです。
実際に、自働債権や受働債権、消滅時効や不法行為との関連など、一読して理解は難しいかと思います。
しかし、事例を丁寧に考えて繰り返し過去問を解くと、問題文自体にも慣れてきて、事例の把握に時間をとられないようになります。
また、問われていることが実は基本的な事項であることにも気が付くでしょう。
ぜひとも基本的な事項だけ押さえて、効率よく宅建合格を勝ち取ってください。